2022/02/06

モノクロームに恋して

役者人生を送っていた頃、よく仲間と映画談義をした。
そのとき話題にしていたのは黒沢明監督の「椿三十郎」だ。
仲間A「川に流れていくあの椿の赤色がたまらなんだよね」
仲間B「赤っていうか紅(べに)だよね」
ワタシ「あーわかる、紅って感じ。あのシーンいいよね」
仲間D「いいよね~。でも待って、あの映画白黒だよね」
仲間4人「・・・・・」
現代のようにスマホですぐに調べられる状況ではなかったが、確かに白黒の作品だ。
しかし4人とも、椿の紅色を鮮明に思い浮かばせていた。
思えば白黒の映画とは、カラーのそれよりも鮮明に色を思い浮かべることができるのかもしれない。

 

似たような話だが、私のアルバムには白黒写真が結構ある。
名誉のために言いたいが、生まれた時から一応カラーフィルムは発売されていた。
親、兄弟の話では、カラーフィルムが売られてから、白黒フィルムが特売だったそうで、
三人兄弟末っ子の私には「これでいいよね」的に結構白黒写真があるのだ。
お気に入りのウサギのアップリケのついたスカートを履いた笑顔の白黒写真がある。
写真に色はないのに、私にはそのスカートの色もアップリケの色も鮮明に思い出すことができる。

 

モノクロームとは想像力や記憶力をかき立てるものなのかもしれない。



偶然にも私の誕生日に亡くなったカメラマン吉田大朋氏の写真展が命日の2月9日から
西麻布のギャラリーである。
エルジャポンなどのファッション誌に鮮明なカラー写真を掲載していた彼のモノクローム写真は私にどんな色を想像させてくれるだろうか。
楽しみだ。

 

フロム エス。